苫米地式コーチング認定コーチの萩原崇です。
2024年11月24日に開催された苫米地博士のセミナー「1day超集中コーチング・ブートキャンプ」にスピーカーとして登壇しました。講演タイトルは「次世代バランスホイールへの招待」です。
この記事はその登壇をきっかけに書いたものですが、その後に刊行された『オーセンティック・コーチング2026』の増補版で、バランスホイールそのものが大きく進化しました。そこで今回、書籍の内容を踏まえて大幅に加筆しています。
バランスホイールとは何か、なぜ複数のゴールが必要なのか。そして、これからのバランスホイールはどこへ向かうのか。順番に考えていきましょう。
バランスホイールとは
バランスホイールはゴール設定の3つのルールの中の「複数のゴールを設定する」に基づく枠組みです。
趣味、職業、健康、家族など、人生のさまざまな方面にゴールを設定して、それぞれのゴールの関連性やバランスを見るためのツールと言えます。用語はルー・タイスのプログラム(TPIE)に由来し、『オーセンティック・コーチング2026』では「バランスホイールとは私たちが設定するいくつかのゴールのことを言います」と、ゴールの集まりそのものを指す言葉として定義されています。
なぜ「ホイール(車輪)」なのでしょうか。若年層向けプログラムPX2を解説した『ゲシュタルトメーカー』に、名前の由来がよくわかる一節があります。
いずれにせよ、一つか二つの要素だけを偏重してしまうと、幸福にはなれない。ちょうど、いびつな車輪(ホイール)がうまく転がらないようなものです。
——苫米地英人『圧倒的な価値を創る技術[ゲシュタルトメーカー]』
同書では、バランスを失した例として「大金持ちなのに一人も友達がいない孤独な老人」や「超有能なのに家族との関係は冷えきっているビジネスマン」が挙げられています。仕事やお金という一つか二つの分野だけにゴールを置くと、車輪はいびつになり、うまく転がらなくなるのです。
もしもゴールが1つしか設定できなかったとしたら、そのゴールのために何かを諦めなくてはいけなくなるかもしれません。コーチングにおいて、そんなことがあっていいはずはありませんよね。
趣味、職業、健康、家族など、人生の様々な方面にゴール設定をして、それぞれのゴールの関連性やバランスを見るためのツールです。
もしもゴールが1つしか設定できなかったとしたら、何かを諦めなくてはいけなくなるかもしれません。コーチングにおいてそんなことがあっていいはずありません。
円をいくつに分けるかは本質ではない

従来のバランスホイールは、円を8つ(もしくはそれ以上)に分割して、それぞれの区画にカテゴリを割り当て、ゴールを設定していくものでした。
『オーセンティック・コーチング2026』では、代表的なカテゴリとして「職業、健康、趣味、家族、生涯教育、ファイナンス、地域社会への貢献、世界への貢献」の8つが挙げられています。一方で『ゲシュタルトメーカー』のPX2では人生を12分割しますし、『苫米地式コーチング』では10の項目が示されています。
つまり、8・10・12といった数字そのものに理論的な意味はありません。本質は「人生の全方位にゴールを置き、一つか二つの要素への偏重を避け、全体をひとつの輪として統合する」ことにあります。実際、PX2の解説でも「人生のあり方は人それぞれ。もっとたくさんの要素に分けてもかまいません」と明記されています。
各カテゴリのゴールに優先度はなく、フラットになるように設計されている。これが基本的なバランスホイールの形です。
ちなみに、複数の分野にゴールを設定すると集中力が分散するのでは、と心配になる方もいるかもしれません。この点について『まずは親を超えなさい!』は、明確に逆だと述べています。
バランスがとれたゴールであるほうが、むしろ無意識を活性化し、すべての分野で成果を上げる方法が見つかるよう機能するのです。
——苫米地英人『まずは親を超えなさい!』
たとえば理想のライフスタイルを考えれば、その維持に必要な資金が見え、そのときの仕事や発揮している能力までイメージが広がっていきます。分野同士が相互に規定し合うことで、ゴールに全体性が生まれるのです。
バランスホイールの新しい形
さて、ここからが本題です。各カテゴリのゴール設定のルールをあらためて確認してみると、「ファイナンス」と「健康」のゴールは、他のゴールと少し毛色が違うことに気が付きます。
通常のゴール設定では、「現状の外側へ」ゴールを設定していきます。そして他のカテゴリのゴールは、基本的に大きければ大きいほどいい。100人の健康を増進させるより、1000人の健康を増進させるほうがいいわけです。
ところが、ファイナンスのゴールは違います。稼ぐ額が大きければ大きいほど良いという訳ではなく、ちょうどいいバランスのところにゴールを設定します。『Dr.苫米地式資産運用法』では、「5年後、年収1億円」のような金額のゴール設定は「してはいけません」とまで書かれています。同書はその理由を、健康管理との類比で説明しています。
あなたが健康管理を考えた時、血圧はいくつで、体重は何キロでなどとはあまり決めないはずです。……重要なのは正確な数字ではなく、健康な状態を維持することです。ファイナンスも同様で目標は金額ではなく、収入と支出のバランスの維持です。
——苫米地英人『Dr.苫米地式資産運用法なら誰もが絶対にrichになれる!』
健康のゴールもファイナンスと同様に、ちょうどいいバランスで健康な状態が保たれていればいい、という考え方です。
そして両方のカテゴリに共通する要素が、それ以外のゴールの達成を支える基盤としての役割を持つことです。『オーセンティック・コーチング2026』は、この2つの性質をこう整理しています。
ファイナンスと健康はその大きさよりもバランスが重要なゴールであり、またその他のバランスホイールのゴール達成の基盤となるゴールだからです。
——苫米地英人『オーセンティック・コーチング2026』
健康を崩した瞬間に、すべてのゴールは一旦リセットされてしまいます。ファイナンスが成り立たないと、他のゴールの追求も成り立ちません。掲げるその他のゴールの大きさに合わせて、必要な収入や健康度が必然的に決まってくる。そういう意味で、この2つは他のゴールを下から支える「基盤」のカテゴリなのです。
2枚の円盤という考察
ここからは私自身の考察になります。
「基盤となる2つのカテゴリ」と「その上で大きく広げていくカテゴリ」。ゴール設定の尺度がこれだけ異なるなら、同じ一枚の円の中にフラットに並べるより、分けて表現したほうが構造が見えやすいのではないか。
そこで考案したのが、バランスホイールを2枚の円盤として表現することです。
ファイナンスと健康を下の円盤に、職業・趣味・家族などその他のカテゴリを上の円盤に置きます。下の円盤が安定して回っているからこそ、上の円盤のゴールを思い切り現状の外側へ広げられる。そんなイメージです。
バランスホイールを2次元から3次元にするこの試みは、講演でも新しい視点の提供ができたと感じています。
次世代のバランスホイールへ
2024年に書いたこの記事は、「次世代コーチングという枠組みの中では、もっとバランスホイールを進化させることができるはず」という一文で締めくくっていました。
その後、この期待は現実になります。『オーセンティック・コーチング2026』の増補版で、博士自身が従来のカテゴリに3つを加えた「新バランスホイール」を提示したのです。追加されたのは「抽象度」「リーダーシップ」「エソテリシティ」の3カテゴリです。
興味深いのは、この3つの由来です。ルー・タイスのシステムには元々「スピリチャリティ」というカテゴリがありました。敬虔なカトリックだったルー・タイスが、キリスト教国であるアメリカ向けに組み込んでいたものです。しかし日本では、この言葉がオカルトや怪しい宗教と誤解されるリスクがあるため、日本への導入時にはあえて外されていました。それを、宗教性をできるだけ排した形で3つに分割し、復活させたのが新バランスホイールなのです。
- 抽象度: 利他性を担うカテゴリです。「家族がお腹いっぱいになる」より「全世界がお腹いっぱいになる」のほうが抽象度も利他性も高く、現状の外に出やすくなります。すべてのカテゴリのゴールについて利他性を確認していく、セルフコーチのような役目とされています
- リーダーシップ: 自らのゴールを高く掲げ、それに賛同するフォロワーが集まることでリーダーになる、という考え方です。従来は「ゴールはコーチ以外に教えない」がドリームキラー(ゴールを否定し、夢を諦めさせようとする人たち)への対策の鉄則でしたから、ゴールを掲げて人を集めるこのカテゴリは、大きな方針転換とも読めます
- エソテリシティ: 強い倫理観によって「自分の命を失ってでも譲れないものがある」というゴールを持つこと、と説明されています
3つは「スピリチャリティ」を日本人に理解しやすいように分けたものなので、3つで1つ。21世紀に必要な利他性と倫理を担うカテゴリ群と位置づけられています。
まとめ
あらためて振り返ると、バランスホイールは単なる分類表ではなく、進化を続けている枠組みだということがわかります。
ルー・タイスの「バランスの輪」から始まり、日本への導入で形を変え、そして増補版では時代の要請に応えて新しいカテゴリが加わりました。私が講演で提案した「2枚の円盤」も、ゴール設定の尺度の違いという構造に注目した、進化の道すじの一つの試みです。
まずは白紙のホイールに、自分にとって大事なものを書き込んでみてください。自分の人生のどこが空白になっているのか、どこに偏っているのかが、輪を埋めてみるとすぐにわかるはずです。
そのうえで、更に次世代コーチングという枠組みの中では、もっとバランスホイールを進化させることができるはず、だと思っています。


