苫米地式コーチング認定コーチの萩原崇です。
今回から、「学生のためのコーチング入門」という連載を始めます。進路のこと、受験のこと、部活のこと。学生が毎日向き合っていることを入り口に、認知科学に基づくコーチングの基礎を、全8回でお伝えしていく予定です。
コーチングというと、大人がビジネスで使うもの、というイメージがあるかもしれません。ただ、この連載で紹介する苫米地式コーチングの土台には、もともと学生・若者のために作られたプログラムがあります。その話も、追ってしていきたいと思います。
第1回の今回は、連載全体の出発点となる問いから始めます。「あなたの『将来の夢』は、本当にあなたが決めたものですか?」という問いです。
「なりたいもの」ランキングの1位は「会社員」
第一生命保険が毎年発表している「大人になったらなりたいもの」という調査があります。2026年3月に発表された最新の調査では、小学生男子の1位は「会社員」でした。これで6年連続の1位だそうです。
数年前の調査では、中学生・高校生でも男女ともに1位が「会社員」だった年があります。
会社員という答えが悪いわけではありません。調査元の分析では、身近で働く大人への信頼の表れではないか、とされています。ここで考えてみたいのは、答えの中身ではなく、もう少し手前のことです。
小学生が「会社員」という言葉を知っていて、それを「なりたいもの」の欄に書く。その言葉は、どこから来たのでしょうか。
おそらく、本人が自分で発明した言葉ではないはずです。
親の会話、先生の言葉、テレビやネットで見かけた何か。
どこかで受け取った言葉が、いつのまにか「自分の将来」の答えになっている。そういうことが、実は誰にでも起きています。
夢は、外からやってくる
私たちは、生まれたときから言葉を周りの人から受け取って育ちます。最初は親、それから先生、友達、テレビ、SNS。ものの考え方も、何が「いい進路」で何が「もったいない選択」かという感覚も、ほとんどはそうやって外から入ってきたものです。
影響を受けること自体は、自然なことです。誰もそこから逃れられません。
問題は、外から入ってきたものを「自分で決めた」と思い込んでしまうことです。苫米地英人博士は、著書の中でこう書いています。
現状の中にあるゴールではなぜダメかというと、それはいつの間にか、他者からそれを目指すようにと仕向けられた「偽のゴール」「奴隷の夢」である可能性が高いからです。
——苫米地英人『すべての仕事がやりたいことに変わる』
「奴隷の夢」とは、ずいぶん強い言葉です。ただ、思い当たる場面はないでしょうか。
たとえば進路を考えるとき、私たちはつい「今の成績で入れる学校はどこか」「自分に向いていそうな仕事は何か」という順番で考えます。同じ書籍では、成績や偏差値で評価される学校生活の中で、「やりたいかどうか」ではなく「やれるかどうか」で物事を判断する癖がついてしまう、と指摘されています。
「やれるかどうか」の基準で選んだ夢は、一見、堅実に見えます。でもその「やれる範囲」の感覚自体が、過去に外から受け取ったものでできているとしたら。それは自分の夢というより、周りの期待の平均値かもしれません。
コーチングの答え:ゴールは「現状の外」に、自分で置く
では、どう考えればいいのでしょうか。コーチングの答えはシンプルです。
ゴールは、自分で設定する。そして、現状の外に設定する。
ここでいうコーチングとは、ルー・タイスというアメリカの教育者が作り上げ、認知科学者の苫米地英人博士が理論面を発展させてきた体系のことです。ルー・タイス氏のプログラムは世界60カ国・21言語で提供され、延べ3300万人が受講してきました(『夢をかなえるPX2完全マスター』)。
冒頭でふれた「学生・若者のために作られたプログラム」というのは、この青少年向け教育プログラムであるPX2のことです。
ポイントは「現状」という言葉の意味です。コーチングでいう現状とは、「今この瞬間の状態」だけではありません。今のままの自分でいれば十分に起こりそうな未来まで、ぜんぶ含めて「現状」と呼びます。
たとえば、今の成績のまま順当に入れそうな学校に入り、就けそうな仕事に就く。それがどれだけ先の話でも、コーチングの定義ではすべて「現状」です。ゴールは、その外に置く。つまり、今の自分のままでは実現の方法が見えないくらいの場所に置くのです。
「方法が見えないものを目指すなんて、無謀では?」と思われたかもしれません。その疑問はもっともで、なぜそれが機能するのかは、この連載の後半でじっくり説明していきます。ここでは先に、私自身の話を少しさせてください。
私の場合、きっかけは漫画だった
私は高校1年の冬の進路面談で、「東京大学に行きます」と担任の先生に伝えました。当時の私の偏差値は、全国模試で50程度。先生は怒るでもなく、それがいかに難しいかを、論理的に、丁寧に説明してくれました。
正直に言うと、私が「東京大学」という名前を知っていたのは、当時読んでいた漫画『ラブひな』に登場していたからです。大学の偏差値ランキングも、世の中にどんな大学があるのかも、ほとんど知りませんでした。
きっかけとしては、ずいぶん軽いと思われるかもしれません。でも、振り返ってみると2つの点で、これはコーチングでいうゴールの条件を満たしていました。
ひとつは、誰かに勧められたのではなく、自分で決めたことです。親も先生も、東大を目指せとは一度も言いませんでした。むしろ止められる側でした。
もうひとつは、当時の私にとって完全に「現状の外」だったことです。偏差値50の高校1年生に、合格までの道筋は見えていません。それでも結果として現役で合格し、その高校から初めての現役東大合格者になりました。
道筋が見えないゴールに向かって、なぜ走り続けられたのか。当時の私はコーチングを知りませんでしたが、いま理論を学んでから振り返ると、説明のつくことをいくつもやっていました。たとえば受験期の「心の中の言葉」の使い方です。この話は、連載の第5回で取り上げます。
見えないゴールを、どうやって見つけるのか
さて、ここまでの話を組み合わせると、ひとつの困った問題が浮かび上がります。
ゴールは現状の外に置くべきだ。ところが、人間の脳には「自分にとって重要なものしか見えない」という性質があります。コーチングではこれをスコトマ(心理的盲点)と呼びます。そして何が重要かは、今までの自分、つまり「現状」が決めています。
現状の外にゴールを置きたいのに、現状の外は見えない。
この矛盾をどう乗り越えるかが、コーチング理論の中心テーマです。苫米地博士が「まずゴールがあって、その次に認識が生まれる」(『まずは親を超えなさい!』)と語る意味も、この矛盾を解く鍵になります。この連載では、脳と心の仕組みを一つずつ確認しながら、最終的にこの問いに答えていきます。
次回は、その第一歩として「なぜ見えないのか」を扱います。自分の腕時計を思い出して描いてみる、という簡単な実験から始めますので、よろしければ手元に紙とペンをご用意ください。
あなたの「将来の夢」は、誰が決めたものでしょうか。次回までに、少しだけ考えてみていただけたらうれしいです。
ゴールは現状の外側に設定すること

