苫米地式コーチング認定コーチの萩原崇です。
前回は、体温を一定に保つのと同じ仕組み、ホメオスタシスが心の世界にも働いていて、「いつもの自分」(コンフォート・ゾーン)からズレると元に戻されてしまう、という話をしました。三日坊主は意志の弱さではなく、この仕組みの正常な動作でした。
今回は、この仕組みが日常で見せる、もうひとつの顔を扱います。「やる気が出ない」の正体です。
宿題の前だけ、頭が冴える
宿題をやろうと机に向かった途端、不思議なことが起こります。
「その前に部屋を片付けたほうが集中できる」「今日は疲れているから、朝やったほうが効率的だ」「まず計画を立て直そう」
やらないほうがいい理由が、次から次へと湧いてくるのです。
苫米地博士は、PX2の解説書でこの現象をそのまま取り上げています。
宿題をやらなければいけないときに、宿題をやらない理由、いま宿題ができない理由が次から次へと思いついてしまうことがあります。大人でも、仕事ができない理由、しない理由を次々と列挙して嫌な仕事から逃げてしまう人がいますが、それと同じです。
——苫米地英人『夢をかなえるPX2完全マスター』
面白いのは、このときの頭の回転の速さです。授業中には出てこないような気の利いた理屈が、宿題を避けるためなら瞬時にいくつも出てくる。実はこれ、脳の創造力がフル回転している状態です。ただし、向きが逆なだけで。
クリエイティブ・アボイダンス:回避に使われる創造力
コーチングでは、この現象をクリエイティブ・アボイダンス(創造的回避)と呼びます。
創造的回避とは、現状というコンフォート・ゾーンを維持するために、脳が創造的に、やりたくないことをやらなくてすむ言い訳を考え出すことです。突然病気になったり、ケガをしたり、いろいろな回避方法を無意識がクリエイティブに考えつきます。
——苫米地英人『「1日10分」で脳が生まれ変わる』
前回の話とつながっているのがわかるでしょうか。
ホメオスタシスは「いつもの自分」を守ろうとします。宿題への本気の取り組みが自分のコンフォートゾーンの外にあると、無意識はそれを回避するために、持てる創造力を総動員するのです。言い訳だけでなく、時には本当に体調を崩すという形まで取ります。
大事なのは、これが「怠け」でも「才能のなさ」でもないことです。むしろ逆で、言い訳が上手な人ほど、脳の創造力は高いと言えます。問題は能力ではなく、創造力が向いている方向です。
そして、ここに希望があります。
同じ創造力が、ゴールの側に立ったときには、達成の方法を勝手に考え出してくれるのです。苫米地博士はこれを創造的回避の逆、クリエイティブ・アンコンシャスネス(創造的無意識)と呼んでいます(『「1日10分」で脳が生まれ変わる』)。
考えに詰まっても、ふとした瞬間に解決策が浮かぶ、受験勉強で難問の解法が翌朝ひらめくような働きです。回避に浪費されていた創造力を、達成側に向け直せるかどうか。それを分けるのが、次のテーマです。
want to と have to:同じ努力が正反対になる
コーチングでは、行動を2種類に分けます。want to(心からやりたくてやること)と、have to(やらなければならないからやること)です。
苫米地博士の著書に、蕎麦職人の例があります。「日本一の蕎麦職人になる」という夢を持って弟子入りしたAさんと、「ほかに勤め先がないから」働いているBさん。二人がこなす修業の中身はまったく同じです。しかしAさんにとって修業はwant to、Bさんにとってはhave toであり、時間が経つほど二人の差は開いていきます(『すべての仕事がやりたいことに変わる』)。
つまり、行動そのものにwant toとhave toの区別があるのではありません。その先にゴールがあるかどうかで、同じ行動の意味が正反対になるのです。
have toになった行動には、体まで抵抗します。ルー・タイス氏がコーチングしたケニアのトップランナーは、練習の最後の区間になると決まって胸焼けや頭痛に襲われました。もともとは優勝賞品というwant toで走っていたのに、いつのまにか走ること自体がhave toに変わっていたためです。ゴールを思い出させると、症状は消え、自発性が戻りました(『ビジネス成功脳スピード構築』)。
勉強でも同じことが起きます。苫米地博士によれば、人間の脳は本当にやりたいことをやるときにIQが上がり、やりたくないことをやるときには下がります。しかも下がるだけでなく、「やりたくないことを避けようとする知恵」の方にIQが使われてしまう(『夢をかなえるPX2完全マスター』)。同じ1時間、同じ参考書でも、want toの1時間とhave toの1時間では、頭の働きがまるで違うのです。
やる気は「出す」ものではなく「出る」もの
ここまで来ると、「どうすればやる気が出ますか」という問いの立て方自体を、考え直したくなります。苫米地博士の答えは明快です。
モチベーションは原因ではなく、結果なのです。
——苫米地英人『コーポレートコーチング(上)』
同書では、ウイルスが体に入ると体温が上がるのと同じ「自然な結果」だと説明されます。発熱に「やる気」は要りません。戻るべき状態が決まっていれば、体は勝手に動きます。
心も同じで、コンフォートゾーンと現状の間にギャップがあれば、それを埋めようとする力が自動的に生まれる。その力のことをモチベーションと呼ぶにすぎない、というのです。
エアコンにたとえると、わかりやすいと思います。室温10度の部屋で設定温度を15度にするより、25度にしたほうがエアコンは強力に動きます。設定温度にあたるのがゴールです。ゴールが現状から遠いほど、そこへ向かう力は強くなります(『コーポレートコーチング(上)』)。
だとすれば、「気合いでやる気を出す」という作戦は、設定温度を変えずにエアコンの風だけ強くしようとするようなものです。手を入れるべきは気合いではなく、ゴールなのです。
have to だらけなら、ゴールを見直すサイン
苫米地博士の教えでは、ゴールの世界はwant toだけで作るのが原則です。have toが混ざっていたら、ゴールを再設定するか、ゴールのリアリティを上げてwant toに変わるようにする。そこまで求められます(『「1日10分」で脳が生まれ変わる』)。
とはいえ、学生の毎日には、提出期限も校則も受験もあります。今日から全部をwant toにするのは、現実には難しいと思います。
そこで、まずはこう考えてみてはどうでしょうか。「have toだらけの毎日」は、自分を責める材料ではなく、ゴール側を疑うサインだ、と。
蕎麦職人のAさんを思い出してください。ゴールがあれば、同じ修業がwant toになりました。裏を返せば、勉強がhave toにしか感じられないとき、疑うべきは自分の根性ではなく、その先にあるゴールです。そもそもゴールがないのかもしれないし、あっても第1回で見たような「誰かに与えられた夢」なのかもしれません。他人のゴールのための行動は、どうしたってhave toになるからです。
では、自分の心の中身、何をやりたいと感じ、何を嫌だと感じるかは、そもそもどうやってできあがったのでしょうか。次回は心の設計図であるブリーフシステムと、それを日々作り続けている「心の中の言葉」(セルフトーク)の話をします。第1回で予告した、私の受験時代の「言葉の使い方」の話も、そこでお話しします。
ブリーフシステムを変えないまま何かをしようとすると、やらない理由が次々に思いつく。

