【連載】学生のためのコーチング入門 第5回 心は言葉でできている

苫米地式コーチング認定コーチの萩原崇です。

前回は、やる気は「出す」ものではなく、ゴールがあれば結果として「出る」ものだ、という話をしました。同じ勉強がwant toにもhave toにもなる。分けるのは、その先にゴールがあるかどうかでした。

では、何をやりたいと感じ、何を嫌だと感じるか。そういう心の中身は、そもそもどうやってできあがったのでしょうか。今回の答えを先に言うと、その材料は「言葉」です。

赤信号で止まるとき、何が起きているか

赤信号で止まる。当たり前すぎて、考えたこともないかもしれません。

でも、よく考えると不思議です。赤い光そのものには、人を止める物理的な力はありません。私たちが止まるのは、道路交通法という「言葉」で書かれたルールが、心の中に入っているからです。苫米地博士は『コーポレートコーチング(上)』で、車が来ていなくても赤信号で止まるのは言語が行動を規定しているからだ、と説明しています。

同じ本には、銀行残高の例も出てきます。通帳の「100円」という数字より「100万円」という数字のほうがうれしい。でも、数字はどちらもただのインクの染みです。私たちは言葉に行動だけでなく、感情まで動かされている。それくらい深く、言葉の世界の中で生きているのです。

ブリーフシステム:「性格」と呼ばれているものの正体

心の中に入った言葉は、積み重なって、その人の「信念の体系」を作ります。コーチングではこれをブリーフシステムと呼びます。何を正しいと感じ、何を無理だと感じ、どう行動するか、無意識の判断のパターンの集まりです。

世間で「性格」と呼ばれているものの正体は、実はこのブリーフシステムだ、と苫米地博士は言います。そして重要なのは、それが生まれつきのものではなく、後天的に作られたものだということです(『明日から別人、周りの環境も変わる 性格改善のヒント』)。作られたものなら、作り直すこともできます。

では、どんな言葉がブリーフシステムに強く刻まれるのでしょうか。苫米地博士によれば、ブリーフは言葉(WORD)・イメージ(PICTURE)・情動(EMOTION)の3つがワンセットになって作られます。特に強い感情が言葉に乗ったとき、強烈なブリーフになります(『世界一簡単に目標がかなう 成功脳の作り方』)。

たとえば、小学生のころ人前で音読を笑われた、という経験があるとします。「笑われた」という強い感情とセットになった「自分は人前が苦手だ」という言葉は、何十回聞いた授業内容より深く刻まれます。

そして第1回・第2回で見たとおり、子どもにとっての言葉の出どころは、親や先生という「影響力の強い人たち」です。私たちは、正しいかどうかではなく、影響力が強いかどうかで言葉を受け入れてしまうのです(『ビジネス成功脳スピード構築』)。

セルフトーク:1日数万回の自己対話

ただし、他人の言葉は、聞いただけではまだ「材料」にすぎません。それをブリーフシステムに書き込む実行役が、今回の主役、セルフトークです。

セルフトークとは、声に出すかどうかにかかわらず、自分が自分に語りかけている言葉のことです。「あ、しまった」「やっぱり自分はダメだ」「まあ、こんなものか」。人は1日に数万回とも言われるセルフトークを、ほとんど無自覚に繰り返しています。

セルフ・トークを繰り返すたびに、過去の情動や他人の意見があなたのブリーフの中に組み込まれ、それとともにコンフォート・ゾーンが決められていきます。
——苫米地英人『まずは親を超えなさい!』

なぜ、ただの独り言にそんな力があるのでしょうか。同書の説明はこうです。

セルフ・トークは、まさに実際の体験を思い出す行為なのです。
——苫米地英人『まずは親を超えなさい!』

セルフトークの言葉は映像を呼び起こし、映像はそのときの感情を呼び覚まします。つまり、失敗を思い出して「しまった」とつぶやくたびに、脳の中ではその失敗をもう一度体験したのと同じことが起きている。実際には一度しか起きていない失敗でも、心の中で千回反芻すれば、千回失敗した人の自己イメージができあがっていくのです。

しかも、放っておくとセルフトークはネガティブに偏ります。人間の記憶は失敗のような強い感情を伴う出来事ほど残りやすくできているからです(『まずは親を超えなさい!』)。これは脳の仕組みであって、あなたの心が暗いからではありません。だからこそ「管理」が要るのです。

テストが返ってきたときの、心の声

具体的な場面で考えてみましょう。テストが返ってきて、思ったより悪い点だったとき、心の中で何と言っているでしょうか。

苫米地博士は『コーポレートコーチング(下)』で、失敗したときのセルフトークを3つの型に分けています。「私ってダメね」と言う人は、繰り返すうちに「ダメな私」が当たり前の自分になっていきます。「私らしくもない」と言う人は、「失敗が自分らしくない私」ができていきます。そして「失敗するたびに学ぶことができる私」という型もあります。

注目してほしいのは、3人が手にしている答案はまったく同じでもよい、ということです。事実が自己イメージを決めるのではなく、事実をどんな言葉で処理するかが自己イメージを決めるのです。

他人の言葉も、あなたのセルフトークを経由して同じ働きをします。『まずは親を超えなさい!』には、「あなたは事故を起こしやすいんだから気をつけてね」と言われ続けた人が、ますます事故を起こしやすくなる、という例が出てきます。言われるたびに事故の場面を思い出し、「事故を起こす自分」を再体験してしまうからです。

「あなたは本番に弱いね」「うちの家系は数学がダメだから」

悪気のない一言が、受け取った側の反芻によって、その通りの自分を作っていくことがあります。

私の受験時代に「使わない」と決めていた言葉

第1回で予告した、私自身の話をします。

高校1年の冬に東大を目指すと決めたとき、私の偏差値は50程度でした。数字だけを見れば、弱気になる材料はいくらでもあった状況です。

当時の私はコーチングの理論など知りませんでしたが、ひとつだけ自分に課していたルールがあります。ネガティブな言葉を使わないこと。そしてもうひとつやっていたのが、合格から逆算して各科目の目標点を具体的に決めることでした。

いま振り返ると、これはセルフトークの管理と、基準点をゴール側に置く作業を、素人なりにやっていたのだと思います。「無理かもしれない」という言葉を自分の中で流通させなければ、「無理な自分」は強化されません。代わりに具体的な目標点があれば、心の声は「あと何点、どこで取るか」という方向に向かいます。結果として、私はその高校から初めての現役東大合格者になりました。

もちろん、これは一人の体験談にすぎません。ただ、コーチング理論がこう保証してくれています。

周囲の人が話す内容を変えることはできなくても、自分自身への話しかけ方を変え、それを自分で維持していくことは誰にでもできることです。
——苫米地英人『まずは親を超えなさい!』

言葉でできているなら、言葉で作り直せる

今回の話をまとめます。「性格」と呼ばれているものの正体はブリーフシステムであり、それは言葉×イメージ×感情でできた、後天的な構築物です。そして、それを日々書き込み続けている実行役が、1日数万回のセルフトークです。

つまり、いまの自分は「これまでのセルフトークの積み重ね」であって、変えられない宿命ではありません。ネガティブな言葉に気づいたら止める。ゴール側の言葉に置き換える。この意図的に設計されたセルフトークをアファメーションと呼びますが、詳しい作り方は、アファメーションの記事に譲ります。

さて、セルフトークの話には続きがあります。「自分ならできる」という感覚、いわゆる自信も、実はこの仕組みの上に成り立っています。でも、「自信を持て」と言われて持てるものではありませんよね。次回は、コーチングが「自信」をどう分解しているかをお話しします。キーワードは、エフィカシーセルフ・エスティームの区別です。

私達が現状だと認識する世界は、過去に聞いてきた言葉によって作られている