苫米地式コーチング認定コーチの萩原崇です。
この連載は第1回で、ひとつの問いを立てました。
ゴールは現状の外に置くべきだ。
でも、人間の脳には現状の外が見えない。
それなら、見えないゴールをどうやって見つけるのか。
スコトーマとRAS(第2回)、ホメオスタシスとコンフォートゾーン(第3回)、クリエイティブ・アボイダンス(第4回)、セルフトーク(第5回)、エフィカシー(第6回)。ここまでに揃えた道具で、今回、この問いに答えます。
進路希望調査の欄が書けない、あなたへ
進路希望調査には、たいてい職業名や学校名を書く欄があります。あの欄がすらすら書けなくて、引け目を感じたことはないでしょうか。
先に結論を言います。コーチングの観点では、書けないことよりも、「夢=職業名」という形式のほうに問題があります。
苫米地博士の著書に、こんな例があります。「サッカー選手になりたい」はゴールにならない。サッカー選手は職業だからです。一方、「海外でも活躍できるストライカーになりたい」なら、ゴールになり得ます(『時給10万円も夢じゃない!とっておきのビジネス思考』)。
違いがわかるでしょうか。職業名は、いわば箱の名前です。ゴールとは、その箱の中で「どういう自分で、何をしているか」という状態のこと。苫米地博士は「医者になりたい」という夢に対しても、「医者になってどうしたいか」までを問うべきだとしています(『世界一簡単に目標がかなう 成功脳の作り方』)。医者も、社長も、公務員も、それ自体は通過点であって、ゴールではないのです。
これは「〇〇大学合格」も同じです。合格した瞬間に終わってしまうものは、ゴールというより通過点です。だから、職業名の欄が書けなくても、あなたの夢が「ない」ことにはなりません。問われ方が、ゴールの形をしていないだけです。
ゴールは、ぼんやりしていていい
第1回の問いに対する、最初の答えはこれです。見えないのが正常であり、ぼんやりしたままでいい。
なぜならば、ゴールは現状の外にあるわけですから、原理上、スコトーマで初めからはっきりと見えるはずがないからです。
逆に言えば、あまりに鮮明すぎるゴールは偽物である可能性が高いと言えます。
——苫米地英人『201冊目で私が一番伝えたかったこと』
第2回の内容を思い出してください。私たちには、今の自分にとって重要なものしか見えないのでした。現状の外のゴールが最初からくっきり見えるとしたら、それは定義に反します。細部まで鮮明に描ける夢は、実は「今の自分の重要度」の中から出てきた、現状の内側のものである可能性が高いのです。
では、ぼんやりしたゴールをどう扱うのか。博士がPX2の解説書で示している手順は、「現状のままでは達成できないゴールを設定し、そのゴールから逆算した現在の自分のあるべき姿をイメージする」というものです(『夢をかなえるPX2完全マスター』)。リアルに思い描くのは、遠いゴールの全体像ではなく、そこから逆算した「今の自分のあるべき姿」のほうなのです。
達成方法についても、心配は要りません。ゴールを設定すると、RASの重要度が書き換わり、スコトーマが外れて、「それまでは見えていなかった道筋と方法がパーンと浮かび上がってくる」と苫米地博士は表現しています(『苫米地英人大全1 成功への思考法』)。方法が見えてから決めるのではなく、決めるから見えてくる。順序が逆なのです。
見つけるための、3つの視点ずらし
とはいえ、「ぼんやりでいいから現状の外に」と言われても、取っかかりは欲しいところです。書籍で示されている探し方を、3つ紹介します。
1. 仮のゴールから走り出す
最初から一生モノのゴールを見つける必要はありません。条件は「現状の外にあること」と「心からやりたいこと(want to)」の2つだけ。この2つを満たしていれば、暫定的なゴールとして走り出してよい、とされています(『すべての仕事がやりたいことに変わる』)。仮のゴールに向かって動くとコンフォートゾーンがずれ、新しい景色が見え、その中でゴールを更新していく。この繰り返しの先で、本物に出合うという考え方です。ゴールは何度変えてもかまいません。
2. 「自分が何をすれば他人が喜ぶだろう?」と考えてみる
「やりたいことが分からない」と言う人に、私はこんな視点をおすすめする。「自分が何をすれば他人が喜ぶだろう?」
という視点で考えるのだ。実は、それが「やりたいこと」を見つける近道なのだ。
——苫米地英人『苫米地英人大全1 成功への思考法』
「自分探し」の自問には、自分しか登場しません。そして第2回で見たとおり、今の自分の中をどれだけ探しても、現状の外は出てきません。視点を他人に向けることは、自分の重要度の外側に出る、理にかなった方法なのです。
3. 趣味から探す
博士は、職業と趣味はよく似たゴールだと言います。どちらも絶対条件は「人から止められてもやってしまうこと」。違いは社会の役に立つかどうかだけで、職業のゴールがわからなければ、趣味の側から探していけばよいとされます(『オーセンティック・コーチング』)。あなたが「時間を忘れてやってしまうこと」は、立派な手がかりです。
ゴールはひとつじゃない:バランスホイール
ここまで「ゴール」と単数形で書いてきましたが、実はコーチングでは、ゴールは人生の複数の分野に同時に設定します。PX2の解説書では、学生向けにこう書かれています。
目標とか夢はいろいろなジャンルにあっていいのです。勉強での目標、部活動での目標、趣味での目標、家族との過ごし方の目標、健康に関する目標など、いろいろなジャンルについてバランスよく目標設定をしましょう。
——苫米地英人『夢をかなえるPX2完全マスター』
この枠組みをバランスホイールと呼びます。大人向けには、職業・健康・趣味・家族・生涯教育・ファイナンス・地域社会への貢献・世界への貢献といった8つほどのカテゴリーが示されています(『オーセンティック・コーチング』)。一つか二つの分野だけを偏重すると、いびつな車輪がうまく転がらないように、人生はうまく回らない——それが名前の由来です(『圧倒的な価値を創る技術[ゲシュタルトメーカー]』)。
学生のみなさんに強調したいのは、この枠組みでは趣味や友人関係のゴールが、勉強のゴールと同格だということです。「受験生なんだから趣味は我慢」という発想とは、正反対です。
それにもうひとつ、バランスホイールには実用的な効能があります。人生が8つの分野でできているなら、テストの失敗は人生の8分の1の中の、さらに一部の出来事にすぎません。一つの分野の結果を、自分全体の価値と混同しなくてすむようになるのです。
見つかったかどうかは、どうすればわかるのか
最後に、「これは本物のゴールだろうか」を確かめる目安を紹介します。苫米地博士が挙げる判定基準は、意外なものです。
本当の新しいゴールが見つかったかどうかは、いままでのコンフォートゾーンが苦痛になっているか、否かですぐにわかります。
——苫米地英人『オーセンティック・コーチング』
本物のゴールが見つかると、いつもの毎日のほうが居心地悪く感じられてきます。第3回で見たホメオスタシスが、今度はゴール側を「戻るべき場所」として扱い始めた証拠です。逆に、新しいゴールを掲げたのに今まで通りの毎日が快適なままなら、それは現状の中のゴールだった、ということになります。
なお、見つけたゴールは、むやみに人に話さないほうがいいとされています(『「1日10分」で脳が生まれ変わる』)。第6回で見たとおり、他人はあなたの過去にもとづいて話すので、現状の外のゴールは高い確率で「無理だよ」と否定されるからです。ゴールは、宣言するものではなく、自分の中で臨場感を育てるものです。
第1回の問いに、ここで答え合わせをしましょう。
「その夢、誰が決めましたか?」
ゴールは自分で決める。職業名でなくていい。ぼんやりでいい。複数でいい。何度変えてもいい。そして、見つからない期間は欠陥ではなく、探索の正常な過程です。
次回はいよいよ最終回です。連載全体を振り返りながら、「ふつうじゃなくていい」という話をします。ルー・タイス氏が苫米地博士に贈った、ある褒め言葉から始めます。

